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高度634メートル、“東京スカイツリーの電波”を守り抜く制振装置を開発せよ

東京スカイツリーの写真
Story1

200メートル規模の超高層煙突で磨かれた制振技術

四方を海に囲まれた日本は、世界的に見ても「よく風が吹く地域」と言われている。冬には北西の季節風、夏には台風が直撃することもしばしば。
その一方で建物の高層化は年々進み、東京の都心部ともなれば高さ150メートルを超すビルも珍しくない。

「実は超高層ビルはもちろん、身近なオフィスビルやマンションも常に風の影響で揺れており、その揺れをいかに低減するかでビルの性能グレードが異なってくる」と語るのは、高層建造物を中心にさまざまな制振装置を設計・開発してきた久保充司だ。

風による繰り返し振動は快適な居住性を妨げるだけでなく、煙突やタワーなどの細長い建造物では金属疲労の原因になることがあり、建物自体の寿命も左右してしまう。

三菱重工機械システム(MHI-MS)は鋼製煙突のパイオニアとして、高さ100~200メートル級の超高層煙突の建設を数多く手がけてきた。それに伴い、風揺れのメカニズムと対策を徹底的に研究。制振装置の開発と進化に注力し続けてきた。

そして今では、その技術と実績の結晶とも言える制振装置が、地上600メートル以上の天空で活躍している。そう、“世界一高いタワー”としてギネス世界記録にも認定された、東京スカイツリーだ。

設備インフラ事業本部
構造技術部  鉄構設計課
久保 充司
Story2

前例の無い規模と課題、そして超えるべき数々の壁

東京スカイツリーの開業は2012年5月。地上デジタル放送などの送信を担う「電波塔」として誕生した。

高さ450メートルにある天望回廊のさらなる上、高さ500メートル付近に全長約140メートルの「ゲイン塔(アンテナ塔)」が設けられている。

公共電波であるTV放送は、重要な社会インフラのひとつ。万が一にでも電波送信に障害をきたす事態は避けなければならない。

そこで、強風下であっても安定して電波を出し続けることができるよう設置されたのが、MHI-MSが開発した「倒立振り子式TMD(チューンド・マス・ダンパー)」だ。

東京スカイツリーゲイン塔(アンテナ塔)の説明図

「4つのミッション」を全て叶える制振装置を

MHI-MSが本プロジェクトの打診を受けたのは、東京スカイツリー開業の5年前となる2007年のこと。前人未到の高さもさることながら、未だかつてない規模で高精度な制振性能が求められると予測された。そこで設計担当に抜擢されたのが、中国の高さ492メートルを誇る「上海環球金融中心」向け制振装置など、豊富な実績を持つ久保だ。

久保 充司の写真

「東京スカイツリーの規模は前人未到でしたが、それでもこれまで開発してきた制振装置を改良すれば、必ず対応できると考えました。あとはもう、とにかくお客様のニーズに応えたいという一心でしたね。」

制振装置への要求仕様は、大きく分けて以下の4点であった。

  • 1

    強風時に発生するゲイン塔の揺れを低減する性能

  • 2

    ゲイン塔内部に収まる製品サイズ(直径8メートル、高さ10メートル以内)

  • 3

    大地震に耐え得る安全性能

  • 4

    100年間機能が維持できる、メンテナンス性能と仕組み

東京スカイツリーの脅威は“日常的に吹く”風?!

東京スカイツリーの写真

構造物が風を受けると、その背後に「カルマン渦」と呼ばれる空気の渦が生まれる。この渦と対象物の振動数が一致すると共振して、建物が風の向きに対して直角方向に激しく揺れる「渦励振(うずれいしん)」という現象を引き起こす。
東京スカイツリーの場合、この渦励振が日常的に吹く風で発生すると想定された。

こうした厳しい条件と課題を突破できる仕様、スペックとはどのようなものなのか…?

その検討には、実に約2年の月日を要した。

Story3

634(武蔵)を死守する制振装置に込めた“ものづくり魂”

高層建造物の制振装置は、建物の揺れに対して数十トンのおもりが逆向きに揺れることで作用し、振動を約1/2~1/8程度まで低減させる。

こうした制振装置には、電気制御の駆動装置を備えた“アクティブ型”と、電力を用いず建物の振動に追従しておもりが揺れる“パッシブ型”の2種類があり、本プロジェクトはベストな形式を模索することから始まった。

倒立振り子式TMD概要

倒立振り子式TMDのイメージ

「東京スカイツリーの目玉は“634メートル=武蔵(むさし)”という高さだったので、その頂上の限られたスペースに収めることが必須条件でした。

アクティブ型は小さなおもりで大きな制振性能を発揮しますが、電子機器が電波に干渉する恐れがありました。この条件でいかに制振性能を実現するのか?

検討に検討を重ねてたどり着いたのが、“倒立振り子式TMD”というパッシブ型の制振装置だったのです。」

倒立振り子式TMDなら、おもりを360度動く「ユニバーサルジョイント」という部材で支えているため、あらゆる方向の揺れに対応できる。そしてコンパクトに設計できることも大きなメリットであった。

また、「100年間の機能維持」という課題にも、部品交換やメンテナンスの頻度が少なくて済むなどの利点が合致する。

綿密な初期設計の末、2009年に正式契約を結び実施設計がスタートした。しかし、本格的な検討開始段階で、納まりの問題や地震対策など次々と難問が現れた。

「このあとの約1年間はプロトタイプの開発に入ったのですが、部材ひとつとっても“あちらを立てればこちらが立たず”という試行錯誤の連続で、小さな改善を積み重ねながら完成を目指したことを、今でもよく覚えています。」

久保 充司の写真
Story4

広島工場で、実機を用いて性能実験を敢行

おもりだけでも、従来の3倍サイズに

倒立振り子式TMDのイメージ

これまでにも、倒立振り子式TMDの納入実績は無数にある。しかし今回のプロジェクトでは部品一つひとつに至るまで、全てをスケールアップする必要があった。

たとえばおもりの重量は、従来の煙突向け制振装置だと数トン程度のものが、シミュレーションの結果東京スカイツリーでは65トンのおもりが必要と判明。そこで、制振装置を2基に分けて上部に25トン、下部に40トンのおもりを導入した。

その結果、納まりの問題だけでなく、保守点検で1基を停止した際も残りの1基が機能するため、安全性とメンテナンス性の両立が可能となった。

「大地震対策」の要も独自に進化

「もうひとつ、設計当初から大きく変わったのが、“防舷材(ぼうげんざい)”の大きさです。」と久保は言う。

防舷材とは地震時のおもりの揺れで、制振装置を破壊しないように保護するゴム製の緩衝材を指す。大地震に備え、100年持つ制振装置を実現する上で要とも言える部材だ。

しかし地震の揺れを解析したところ、従来の防舷材ではおもりの揺れに耐えきれず、破損してしまう結果に。そこでおもりの動きや部材への干渉に検証を重ね、最終的に防舷材は通常の2.5倍以上の厚みと、特殊な材料を用いて、各段に性能をアップさせた。

倒立振り子式TMDの写真

 こうした部材の改良・調整は、外部部品メーカーの惜しみない協力で実現した。また、各種シミュレーションには三菱重工総合研究所も参画。

そして検討段階から3年を経た2010年10月、広島工場で実際に制振装置を組み立て、大型振動台による性能検証実験を実施し、目標性能を達成した時は久保も胸をなでおろしたという。

再生ボタン

広島工場での振動台実験の様子を納めた動画。ウエイトがゆっくりと動き、建物の振動を吸収していることが分かる。

Story5

世界最高レベルの安全技術は、アジア全土でも大きな話題に

完成した制振装置の据え付け工事は2010年11月に始まり、現地での最終チューニングを経て、翌2012年2月に納入が完了した。

制振装置の据え付け工事写真

「広島工場でお客様が初めて製品をご覧になった際、“非常によく考えられた製品で本当に満足しています”と言っていただき、納入後も十分な性能を発揮していると共有いただけた。あの時は、ようやく肩の荷が下りたと思いました(笑)。

ただし、100年間の機能維持については現在進行形ですから、今後もしっかり見守り続けなければなりません。」

久保 充司の写真

いまや日本を代表するランドマークとなった東京スカイツリー。かつてない大規模プロジェクトの成功は、国内はもちろんアジアでも大きな話題となった。

実際2016年には世界で4番目の高さとなる、600メートルの超高層ビル「深圳平安金融中心」に制振装置を納めるなど、その舞台はさらに広がり続けている。

「現在も国内の超高層ビル建設プロジェクトが始まっていますし、大手ゼネコンとの共同開発で地震対策用の制振装置にも着手しています。

決して一般の方の目にふれる製品ではありませんが、どんな建造物であろうともそこに集う人々の安全や快適性を守るという使命を担って、試行錯誤を続けていきたいと思います。」